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第二章 

17話)



 ホームシアターを見終わって、下に降りた頃、ちょうど優斗の父親が帰って来るのと同時で、はち合わせした。
(優斗君って、お父さん似なんだ・・。)
 と思ったほど。整った顔付きそのままに年月を刻んだ男性は、優斗と似た瞳の色を持っていた。
 背丈が若干違うかもしれない。優斗の父親は、男性にしては少しばかり小柄で、優斗はすでに父親を軽く抜かしていたから。
 「始めまして・・・優斗の父です。」
 芽生の存在に少し驚いた顔をするものの、あっという間に笑顔を形づくって挨拶してきた彼に、
「送ってくるから。」
 短く言い放つ優斗の視線が、これ以上ないくらいに冷たく変化している。
(あれ?)
 と思うほどで、
「お邪魔しました。」
 と、小さく答える芽生の肩をグイッと握って、父親の横を通り過ぎるものだから、確定だ。
 優斗と、父親の間には、何かしらの溝が刻みこまれている・・・。
 彼の母親が出て行った原因にあるのかも知れない。
 何気に思うが、
(なぜ仲が悪いの?)
 なんて無遠慮に聞けたものじゃない。
 苦虫をかみつぶしたように渋い顔をして家を後にし、芽生の家の駅まで送ると言った彼の申し出を丁寧に断ると、電車に乗り込んだ。
 その頃には優斗の瞳も穏やかなものに戻っていて、ホームで手を振ってバイバイをする彼の表情は柔らかで、気持ちの伝わるものだった。
「また明日。」
 言って、電車の扉が閉まって空いたシートに座り、鼻歌交じりに車窓を覗いてハッとなる。
 彼は、“今日から付き合おう”。と言わなかったか?
 あの時、いきなりされたものだから、混乱して訳が分からなくなっていたが、優斗は確かにそういった。
(私達、本当に付き合い出したんだ・・・。)
 そう思うと、途端。顔から火が出るようにほてってくる。
 優斗の彼女になったんだ・・。
 と思うものの、付き合うと言ったシーンが少し問題かもしれない。
 まるで芽生と体の関係を持ちたいから、ついでに言ったような感じにも受け取れて、彼の言葉には重みがなかった。
『・・・芽生と一緒に過ごしてみて、もっと一緒にいたくなったんだ。』と言った彼の言葉は、本心から出た言葉だろう。けれど・・・
(元々優斗くんは、何人もの彼女と同時に付き合う人なんだよね。)
 雅との問題も、100パーセント彼女だけが悪い訳ではないはずだった。
 それを考えると、素直に喜べない。
 いずれにせよ、彼との関係は、簡単なものではないとは思うのだった。
(大丈夫かなあ〜〜優斗君と付き合って私・・。)
 不安になるのは、当然のことかもしれない。
 ぼんやりそんな事を思いながら電車に揺られて、駅を降りて、家に戻る。
 翔太は、まだ帰っていなかった。
 いつも通りに洗濯物をたたんで、食事の用意をしていると、日も落ちて
「・・翔太・・。まだ帰ってこないなあ・・。」
 なんて一人言を言っていると、電話が鳴った。
 一人でいると、ちょっとした音にビックリしてしまう。
 出ると、翔太からだった。
「バスが接触事故を起こして往生している。・・・悪いが、晩御飯は、先に食っておいてくれ。」
 との内容に目を見張る。
「大丈夫?怪我はなかった?」
 と聞くと、
「心配しなくていい。怪我してる者は、今のところいない感じだから。」
 と短い返事をする声は、元気そうだ。
 それにホッとして、
「分かった。」
 と答える芽生に、
「すまない。今たてこんでるから・・じゃあ。」
 と早口でまくし立てて、翔太の電話は切れた。
 ちょっとの間、受話器を見つめていた芽生だったが、電話を置き、食事作りの続きを始める。
 出来上がった食事を、一人で食べて後片付けをし、翔太の分は皿に盛ってラップをしておく。
 そして、風呂に入って温まると、居間でテレビをつけた。今日のドラマは何だったっけと思ってチャンネルを押していると・・・。
 視線を感じた。
 振り返ると、窓の外から誰かがのぞいているらしい人影が見えたのだ。
(誰かいるの?)
 と思って、キョロキョロ見回した瞬間・・・。
 テレビの横に、人が立っていた。
(!)
 びっくりして動けない。いつの間に部屋に入ってきたのだ。
 その姿は、影になっているのか、とても暗い。
 小柄な体形。スカートをはいた女性はうつむいていた。
 ・・・というより。
 その背格好。服装・・・。フワフワの髪型・・・。
 昨日見たままの、姿形の彼女は・・・。
「みやび・・。」
 芽生がつぶやくと、彼女はゆっくりと顔を上げてくる。